
観光協会のSNS研修 実施レポート|59名が持ち帰った5つの法則
最終更新日:2026年9月10日
執筆:上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役|大手企業・公的機関で延べ15,000名以上にSNS研修を実施)
本記事は、2026年8月27日に広島県観光ボランティアガイド協議会様(HIT広島県観光連盟)主催で実施した2部構成セミナーの実施報告です。観光協会のSNS研修を検討されている方、そしてガイド団体・自治体の観光担当者の方に向けて、当日お伝えした「地域の魅力を伝わる形に変える表現」と「団体でInstagram(インスタグラム)を続ける仕組み」を、現場でそのまま使える形で解説します。
💡 結論サマリー(30秒でわかる本記事の答え)
観光ガイド団体のSNSが止まるのは、文章力や写真の腕が足りないからではありません。「いつ・誰が・何を載せるか」が決まっていないからです。ガイドの皆さんは、地域の歴史を調べ、見どころを案内する専門家です。発信の素材は、すでに全員が持っています。
本記事では、16団体59名にお伝えした5つの法則を、表現(事実・意味・体験)と運用(曜日・担当・テーマ)の両面から解説します。今日から着手できるのは「曜日をひとつ決める」ことだけです。
- 観光ガイド団体の発信が数か月で止まる、本当の原因
- 地域の観光資源を「行ってみたい」に変える3層の型(事実・意味・体験)
- チラシとInstagramで、読み手の状態がどう違うか
- 団体アカウントを続けるために決める3つのこと
- 観光ガイド団体向けのハッシュタグ設計(地名×観光ガイド)
1. 観光ガイド団体のSNSが続かない理由は、書き手のスキルではない
結論から書きます。観光ガイド団体の発信が止まるのは、文章力や写真の腕が足りないからではありません。「いつ・誰が・何を載せるか」が決まっていないからです。
ガイドの皆さんは、地域の歴史を調べ、正しい情報を確認し、見どころを案内する専門家です。素材は、すでに全員が持っています。それでもアカウントが数か月で止まる。この落差の正体は、スキルではなく仕組みにあります。
もうひとつ、根の深い誤解があります。「知っていること」と「伝わること」を同じものだと考えてしまうことです。正確に話した、詳しく説明した、必要なことは全部伝えた——それでも受け取る側は「難しかった」「長く感じた」「何が大切か分からなかった」と感じることがあります。伝わるとは、情報が相手の中で“意味”に変わることです。
今回の研修は、この2つ——表現の型と継続の仕組み——を、2部構成に分けてお伝えしました。
2. 研修の実施概要
この研修が特殊だったのは、16の団体が同じ会場にいたことです。個人のSNS研修なら「あなたが決めればいい」で済む話が、団体アカウントではそうなりません。実際、第2部で最も空気が変わったのは「誰が載せるかを決める」という話をした場面でした。この点は法則4で詳しく書きます。
3. 法則1|「事実・意味・体験」の3層で書く
この章の結論:説明が旅のイメージに変わるのは、事実に「意味」と「体験」を一文ずつ足したときです。
3-1. 事実だけでは、パンフレットと同じになる
「この地域には、古い町並みが残っています」。正しい説明ですが、読んだ人の心の声はこうです。「それは分かった。でも、私にとって何が面白いの?」
事実を伝えるだけなら、パンフレットやホームページでもできます。ガイドの価値は、その先にあります。
- 事実(知る):いつ建てられたのか、何があるのか
- 意味(分かる):なぜ大切なのか、何がこの地域らしいのか
- 体験(心に残る):実際に見て、歩いて、何を発見できるのか
3-2. 宮島の大鳥居を3層に分解すると
研修では、広島県内の3か所(宮島の大鳥居・尾道の坂の道・大久野島)を実際に分解しました。大鳥居の例です。
- 事実:高さは約16.6メートル、重さは約60トン。主柱は樹齢数百年のクスノキで、地中には埋まっていない
- 意味:潮が満ち引きする砂地に埋めて固定すれば、いずれ壊れる。だから柱は置くだけにして、海底の地盤で安定させている。押さえつけるのではなく、支える
- 体験:潮が引く時間に行けば、その柱の足元まで歩いて行ける。目安は海面の高さが100cm以下のとき
同じ素材でも、3層をそろえると「行ってみたい」に変わります。現場でやることは、紹介したい観光資源をひとつ選び、3つの質問に答えるだけです。「客観的に言えることは?」「なぜ面白い?」「訪れた人に何を発見してほしい?」
4. 法則2|「感想」ではなく「見えるもの」を渡す
この章の結論:「すごい」「きれい」「珍しい」で止めず、色・形・大きさ・動きが分かる言葉に置き換えます。
4-1. 「すごい」を情景に変える3つの問い
- すごい → 何が、どのくらい?
- きれい → どんな色・形・光?
- 珍しい → 何と比べて、なぜ?
評価を押しつけるのではなく、観光客が自分で気づける「見方」を渡す。これが表現編の中心にある考え方です。
たとえば「尾道は坂が多く、景色がきれいな町です」を、「細い石段を登って振り返ると、屋根の向こうに瀬戸内の島々と行き交う渡船が見えてきます」に変える。情報量は変わっていませんが、読んだ人の頭に浮かぶものが変わります。
4-2. 歴史は「人の姿」が浮かぶように伝える
- ✕ 1600年代に建てられました
- ◯ 今から約400年前、この道を〔誰が〕〔何をしながら〕行き交っていました
「その頃、ここに誰がいたか」「その人は何をしていたか」。この2つを足すだけで、年号が景色になります。
なお、文章そのものについては「一文60文字以内」を目安としてお伝えしました。「〜から」「〜ので」でつながず、「。」で切る。それだけでチラシの読みやすさは変わります。
5. 法則3|チラシとInstagramでは、読み手がまったく違う
この章の結論:チラシをそのままSNSに載せると、いちばん届きません。読み手の状態が違うからです。
5-1. 「すでに決めた人」と「まだ候補にもしていない人」
- チラシ・ホームページを見る人:すでにその地域へ行くと決めて、調べている人
- Instagramで出会う人:まだその地域を候補にすらしていない人。たまたま流れてきた1枚で、行き先が決まる
同じ「開催のお知らせ」でも、前者には日程と集合場所が効き、後者には「1時間で回るならこの順番」のような、行き先を決める前の情報が効きます。
5-2. 団体アカウントは、まず問い合わせまで引く
いきなり申込みは生まれません。研修では3段階に分けてお伝えしました。
- 知ってもらう:保存とフォロー。どの団体でもできます
- 問い合わせてもらう:プロフィールに連絡先とリンクを置いておく
- 申し込んでもらう:申込みフォームがある団体は、ここまで引ける
まずは2まで。申込みフォームを持っている団体はまだ多くありません。プロフィールに連絡先を1行置くだけで、問い合わせの入口は変わります。
なお、複数の加盟団体があるケース(今回のような協議会・連合体)では、アイコンのデザインを統一してエリア名だけを変えるルールをおすすめしました。小さなアイコンは、場所名を変えるだけでは見分けがつきにくいためです。
6. 法則4|続く団体と止まる団体を分けるのは、曜日と担当だけ
この章の結論:発信が止まる原因の大半は、「気づいた人が載せる」という運用になっていることです。
6-1. 決めるのは3つ。いつ・誰が・何を
「気づいた人が載せる」状態では、全員が「誰かがやる」と思い、結果として誰も載せなくなります。決めるのは3つだけです。
- いつ載せるか:曜日をひとつ決める。「毎週火曜」でいい
- 誰が載せるか:担当を決める。1人でなくていい。持ち回りでも構わない
- 何を載せるか:投稿テーマを順番に回す
3つ目のテーマは、研修で5つに固定しました。「実は、◯◯なんです」「ほとんどの方が、通り過ぎます」「ここ、どこだと思いますか」「1時間で回るなら、この順番」「ガイドさんのお気に入り◯◯紹介」。テーマが決まっていれば、ネタを考える時間はゼロになります。
投稿日は「活動の翌日」に置くのがおすすめです。素材が手元にあるうちに書けます。
ここが、今回の会場で最も反応が大きかった箇所でした。16団体が同席していたため、その場では決められません。「持ち帰って、次の会合で決めてください」と、あえて具体的な宿題の形にしてお渡ししました。研修の最後の記入ワークも、曜日・担当・最初のテーマの3項目だけ。3分で書き終わる分量にしています。書けない方には「テーマだけでもいい」とお伝えしました。
6-2. 週1回でも、1年で52投稿の資産になる
毎日更新しようとすると、たいてい止まります。週1回を1年続ければ52投稿。それだけの記録が残ります。新しく始めることは何もなく、毎回の活動がそのまま素材になります。
7. 法則5|ハッシュタグは「探してもらう道具」から「知らせる道具」へ
この章の結論:ハッシュタグの役割は変わりました。今は「どんなアカウントか」をInstagramに知らせるための道具です。
以前は、ハッシュタグを検索して見に来てもらうものでした。現在は、どんなアカウントかをInstagramに理解させ、同じ関心のある人におすすめしてもらうために使います。
だから「#笑顔」「#幸せ」「#嬉しいご感想」のような、気持ちを表すタグは機能しません。ジャンルが決まっていないと、タグも決まらないからです。
7-1. ガイド団体のハッシュタグは「地名×観光ガイド」で決まる
ジャンルさえ決まれば、4つの型で並べられます。
- 地名+観光:#広島観光 #宮島観光
- 地名+ガイド:#宮島ガイド #まち歩きガイド
- 地名+目的:#広島旅行 #尾道散歩
- 活動そのもの:#観光ボランティアガイド
迷ったときの確かめ方も渡しました。似た言葉を2つ並べ(「#宮島観光」と「#厳島観光」など)、Instagramの検索窓で投稿件数を見て、多いほうを使う。件数は日々変わるので、スライドには数字を書いていません。その場で調べる手順として持ち帰っていただく形にしました。調べるのは最初の1回だけで、あとは使い回せます。
8. 観光ガイド団体のSNS研修で起こりがちな失敗3つ
8-1. 機能の説明で90分が終わる
投稿方法・リールの作り方・インサイトの見方——機能を全部覚える講座にすると、受講後に手が止まります。今回のInstagram編も、機能解説ではなく「いまある魅力をInstagramに置き換える」構成にしました。
8-2. 掲載許可の確認が抜ける
ガイド活動では、参加者が写った集合写真と、いただいた感想が最良の素材になります。ただし載せる前にひと言。集合写真は撮る前に「あとでInstagramに載せてもいいですか」と確認しておけば、1枚ずつ確認しなくて済みます。感想は「お名前は出しません」と添えると、たいてい断られません。
8-3. 決めごとを個人の宿題にしてしまう
団体アカウントで最も個人SNSと違うのがここです。曜日と担当は、その場の思いつきではなく、団体の意思決定として決める必要があります。研修の設計側は、「持ち帰って会合で決める」という着地まで用意しておくべきです。
9. よくある質問(FAQ)
観光ボランティアガイド団体でも、Instagramを運用する意味はありますか。
あります。チラシやホームページは「すでにその地域へ行くと決めた人」が見るメディアですが、Instagramはまだ候補にもしていない人に届きます。ガイド団体にとっては、新しい観光客だけでなく、新しいガイド仲間との接点にもなります。
会員の年齢層が高く、SNSに不慣れです。それでも研修は成立しますか。
成立します。今回の研修は機能を網羅する構成にせず、プロフィールの4項目と投稿テーマ5つ、そして運用の3つの決めごとに絞りました。撮影も、スマートフォンのグリッド機能をオンにして構図を整えるところまでで、十分な変化が出ます。
複数の団体が加盟している協議会ですが、アカウントは団体ごとに作るべきですか。
団体ごとで問題ありませんが、アイコンのデザインを統一してエリア名だけを変えるルールをおすすめしています。小さなアイコンでは、場所名の違いだけだと見分けがつきにくいためです。
研修時間や人数の目安はどれくらいですか。
今回は「表現編60分+Instagram活用編90分」の2部構成で59名にご参加いただきました。表現(チラシ・ホームページを含む文章全般)とInstagramは別のテーマなので、両方を扱う場合は2部構成をおすすめしています。1つのテーマに絞る場合は90分が目安です。
他の地域・他の業種でも同じ研修は依頼できますか。
できます。観光協会・DMO・商工会議所・商業施設・自治体など、対象者に合わせて事例と演習を組み替えて実施しています。地域の観光資源を扱う場合は、事前に主要スポットを共有いただければ、その地域の素材で分解の見本をお作りします。
10. まとめ|足りないのは、置く場所と名乗る言葉だけ
観光ガイドの皆さんが案内している景色も、歩く順番も、長年の経験で見つけた「足が止まる場所」も、もう手元にあります。足りていないのは、それを置く場所と、名乗る言葉だけです。
- 法則1:事実に、意味と体験を一文ずつ足す
- 法則2:「すごい」を、見えるものに置き換える
- 法則3:チラシの読者と、SNSの読者を分けて考える
- 法則4:曜日と担当を決める
- 法則5:タグは「地名×観光ガイド」で決める
このうち今日から着手できるのは、法則4の「曜日をひとつ決める」です。順番としては、いちばん最後に見える仕組みの話が、実は最初にやるべきことでした。
著者プロフィール|上村菜穂(株式会社PR NET 代表取締役)
株式会社PR NET 代表取締役。SNS×AI領域に特化した研修・セミナー・コンサルティングを提供。これまでの登壇・研修先は、ダイハツ工業・東芝テック・ロート製薬・POLA・楽天大学(楽天グループ)・東京大学・東京都中小企業振興公社・各地商工会議所など。大手企業から公的機関まで延べ15,000名以上にSNSとAI活用の研修を実施している。「SNSは24時間365日働く営業マン」という思想のもと、広告費に頼らないSNS集客の体系化を専門とする。
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